(第四巻 27頁)
(世界を救いし隻腕の英雄亡き後
邪神が封印されし地に街を築き
自らが結界の役割を果たし
永き平和への 礎 と成す...)
(誇り高き右腕に刻まれし雷の紋章(あかし)
彼の者達の名は 雷神の民
伝承の謎 紋章の秘密
少年が描く軌跡 雷神の系譜)
弱い者ほど徒党を組み
身代わりの羊を捜す
愛を知らない幼き日々は
灼けた石の痛み
ひとり唇 噤んだまま
膝を抱えて耐えていた
雨も宿ればいづれ過ぎ去る
嵐もまた然り
されど輝やかざる紋章(しるし)
本当の強さって何だろう?
差し出された少女の小さな手が
とても大きく見えた…
(黙したまま何も語らぬ歴史の手の平の上で
出会ってしまった少年と少女の物語
十年の歳月も一閃の 雷 が如く
過ぎ去ってしまえば刹那
今...黒の歴史が再び動き出そうとしている…)
遠い空見上げて この胸を焦がす
浮かぶのは彼女の 愛らしい笑顔だけ
適わぬ想いと 識っていながら…
麗しの君は何故 一族の長の娘
部族一強き者の許へ
嫁ぐこと定めしは 変えられぬ民の掟
嗚呼... 雷(ちから)無きこの腕じゃ 君のこと護れない?
想いなら誰にも負けないと
叫んでもその言葉 虚しくも風に消えた…
(期は満ちようとしていた 長の娘も今年で 婚礼を定められし 齢十六
その誕生の日が差し迫り 一族の猛者達は競って名乗りを上げた
期は満ちようとしていた 邪悪なる波動が 街全体を包み込み
空に立ち込めたる暗雲は <三度目の嵐>の訪れを 告げようとしていた…)
「...婆様...どうなされました?お婆様... 」
「おぉ...何ということじゃ 黒き法衣(Robe)を纏いし者達の影が見える
予言書の使徒 奴らを封印の深奥へ行かせてはならん
邪神の封印を解こうとしておるのじゃ…
いまや雷神様の血も薄れ 我らに扱えるは小さき 雷 のみ
あぁ恐ろしいや 天地を揺るがす強大な力じゃ 来るぞ…あぁ来るぞ…」
(地を割る咆哮 天を裂く爪牙 烈火の如く燃えさかる六対の翼
暗黒を宿した瞳に魅いられただけで
勇猛なる戦士が次々と倒れていった…)
(嗚呼...人間とは神の前では かくも無力なモノなのだろうか...
誰もが深い絶望に呑まれかけていたその瞬間
ひと際眩い閃光が雷(ちから)無き青年の体を貫いた…)
「覚醒めよ...勇敢なる右腕を持つ者よ...
直系の雷(ちから)を受け継ぎし者よ...
かつて私は邪神を封印せし折 雷の槍を放ったが故右腕を失った
今その雷(ちから)を開放すれば 右腕はおろか全身が吹き飛ぶやも知れぬ
御主にその覚悟があるか?
…ならば今こそ覚醒めよ <雷神の右腕>よ!」
「ひとりでは耐え切れぬ 雷(ちから)でもきっと
ふたりなら大丈夫 私は信じる!」
暗雲を貫く雷 あの日出会った少年と少女は
今...二つの紋章重ね合わせて 輝ける未来を紡ぐ…
「…ちゃん...ねぇ...お婆ちゃん...お婆ちゃんったらぁ
どうしたの?それからお話どうなったの? 」
「おぉ...そうだっだねぇ ごめんよ 」
「その後 雷神様が邪神をやっつけたんだよね?ね? 」
「さて どうだったかねぇ...
昔の話だからもう忘れちゃったねぇ…」
「えー...そんなのずるいよ…」
(...そう言って微笑んだ祖母の瞳は とても優しい色をしていた
...その時の事は今でも印象深く覚えている
...私は信じているのだ 雷神の系譜は途絶えていないのだと…)
(受け継がれるモノ...受け継がれざるモノ...
暗雲を貫く光を翼に受け...その白鴉は羽ばたいて往く…)