第十七巻 84ページ…
「大変だお頭、前方に突然巨大な嵐が發生ちやがった!」
「あ~ぁありゃセイレーンですぜお頭~!!」
「セイレーン如きでびびってんじゃないよ、情けないねぇ、
あっちが海の魔女なら、こっちは海の美女だっつうの!」
「『麗しき姿<美の女神>(Venus)の如し』と謳われた、
この<海の女神様>(Thetis様)を嘗めんじゃないよ…」
「そりゃ『猛き姿<戦の女神>(Pallas Athene)の如し』の間違いじゃ…」
「ズィマー何か言ったかい?」
「ひぃ~!!!」
「いくよ野郎ども、びびってんじゃないよ!」
「そ~ら、おいでなすっだぜ!」
「さあ、漕ぐぞ、漕ぐぞ!さあ、漕ぐぞ、漕ぐぞ、それ!それ!(Haw l'altero l'altero! Haw l'altero l'altero hoo! hoo!)」
…波間を漂う襤褸(ぼろ)い板切れ
若い娘を背に乗せ何処へくのか…
「よぉ…気が付いたかい?」
「ここは何処?…貴女(あなた)は?」
「此処は<地中海>(Mediterraneo)、
この船は<絶世の美女=海の女神号>(Venus = L
aetitia)、あたいはこの船の船長レティーシァ」
「そっちの図体のデカイ野郎はヤスロー…筋肉馬鹿だ」
「宜しくな、嬢ちゃん」
「こっちの胡散臭い髭の野郎はズィマー…唯の馬鹿だ」
「がび~ん!」
「他にも馬鹿な野郎が大勢乗ってる…で、あんたは?」
「助けて下さってありがとう、私はアニエス、
海の魔女(セイレーン)の嵐に巻き込まれてしまって…嗚呼…みんな今頃きっと昏い海の底に…」
「もう…海の女が泣くんじゃないよぉ…」
「…ってアナタ、その首飾りどうしたのよ?」
「うわぁ…立ち直りの早い娘だねぇ…
昔…溺れかけてたおっさんを助けた時に貰ったのさ、何でも命よりも大事なもんらしい…」
「そのおっさんって私の父(パパ)よ、間違いないわ!
生きてるの?生きてるのね?私の父(パパ)は、いーきーてーるーのーねー!!」
「うわぁ…あんたも生きてた…親父さんも生きてたんだ…
あんたの仲間にも、他に生きてる奴がいるんじゃないか?」
「船を出して、今すぐ出して、出して、出してなさい、ふーねーをーだーしーなーさーい!!!」
「どひゃぁ~!!!!!」
波を殴り倒しながら突き進む海賊船
それを導くかのように蒼穹を翔け抜ける白鴉
その白は 真っ直ぐ蒼に溶け込んでゆくように
どこまでも…どこまでも…