※ Chapter 1
今、国内で最も名誉ある文学賞を
最年少で受賞した本年度の作家。
彼は業界に彗星のように現れたが
一切の詳細はいまだ謎のままだ。
その彼が初めて、メディアの前へと
姿を現す会見現場では、
あらゆるマスコミの報道関係者が
情報のアンテナを一同に彼に向けた。
街では多くの噂が流れていた。
彼の身に関するリアルさの疑惑だ。
例えば、彼は個人作家ではなくて
共同執筆によるグループという説だ。
何故なら、彼はまだデビューから二年で
50以上の作品を書き続けている。
驚くのはその制作のスピードだけではなくて
あらゆるジャンルまでも書き上げている事だ。
それも全て一定の水準以上の
凄くいいクオリティで全てがベストセラー。
他にも、ネットでは彼の作品について
盗作疑惑までが考察された。
しかしプロットはフラットなオリジナル
似たような一文が見付かる程度。
まさか人工知能が書いているというような
不確かな噂までが街を賑わした。
※ Chapter 2
しかしその荒唐無稽な人工知能説が
脚光を浴びるような大事件が起きた。
それは確か半年前、大手ネットサーバーの
ストレージサービスのハッキング被害だ。
大量のファイルが外部からアクセスされ
その時に彼名義の資料が流失。
その資料というのは未発表の作品で
どれもまだ未完成で止まっているものだ。
話の構成を見るとどれも精巧で
どの作品も途中までは完璧な仕上がり。
しかし、ラストの展開を目前に
プツリと作品は途中で終わっていた。
不可解な事にどの作品の末尾にも
同じ文章が不格好に置かれていた。
「この作品の自動作成に失敗しました。」
そう書き残して全て終結していた。
この一件で噂に拍車が掛かり
彼は一躍として時の人となった。
わざわざ入れる必要のないエラーメッセージ、
“自動作成”という意味深なワード。
さまざまな憶測が彼を囃し立てたが
情報の真相はいまだ謎のままだ。
世間は彼に多くの関心を寄せた。
その間も彼の本は飛ぶように売れた。
※ Chapter 3
多くの疑惑を寄せられた彼だが
作品が盗作という証拠も出ずに、
質の高さが評価されて喝采を受けた。
どの賞も総なめにして称賛された。
国内で最も名誉ある文学作家
誰しもが認める執筆の才能
そんな彼の姿を一目見ようとして
あらゆるメディアが会場に募った。
彼を紹介する為の原稿が読まれて
記者たちは一斉にフラッシュをたいた。
皆が固唾を呑み緊張が走る中、
ついに、檀上に彼が現れた。
しかし、記者たちは皆が茫然とした。
目を丸め驚愕して言葉を無くした。
世間が注目している初の表舞台、
驚いた事にそこに姿を現したのは…
「この作品の自動作成に失敗しました。」